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TKC東北会秋田県支部主催の講演会
日本サッカー協会・女子国際副審の手代木直美さん

 令和2年12月8日(火)、秋田市中通の「パーティーギャラリーイヤタカ」で開催されたTKC秋田県支部主催の講演会に、当法人の会員12名が参加しました。
 今回の講師は、日本サッカー協会(JFA)女子国際副審の手代木直美(てしろぎ・なおみ)さん。ワールドカップやオリンピックなど世界の舞台で活躍する「サッカー審判」の世界に触れながら、前向きに挑戦し続けることの大切さを話していただきました。
 女子サッカーの世界大会で審判員を務める女子国際審判員は、国内にもわずか。国際審判員として登録した後も、多くののセミナーなどを繰り返しながら、正しい判定ができるスキルを磨いていきます。選手生命に関わるファウル行為や、チームの優勝を左右する正確なジャッジを求められるプレッシャーから、メンタル面でも大変な仕事です。
 手代木さんは2015年、異例のスピードでFIFA女子ワールドカップカナダ大会に選出。ビッグチャンスに燃えた手代木さんですが、大会が近づくにつれ「失敗したら…」「私でいいのか…」とネガティブ思考が止まりません。しかし、「自分が選手だったら、こんな不安を抱えている人に審判してもらいたくない!」と考えます。「失敗を恐れずチャレンジしよう!!」と決め、ノーミスで大会を終えることができたそうです。
 手代木さんは当時のことを「自分の評価ばかりを気にして不安を抱えていた」と振り返ります。ミスを減らすための分析といったチャレンジを繰り返し、「チャレンジの数だけ成長できる」と気づいたといいます。
2016年には、リオデジャネイロオリンピックに選出。審判を始めた頃は、自分の判定ミスでチームの優勝や選手の人生が変わってしまう事実に直面し、「やめたい」と思ったこともたくさんありました。そんな時、先輩に「信頼を取り戻す前にやめるのは、逃げるのと同じこと。『手代木に審判をやらせてよかった』と思える存在になることが、正しい責任の取り方では?」と言われたそうです。オリンピックのマークを見た時は「あきらめず審判を続けてきてよかった」と心から思いました。
2019年には、ワールドカップフランス大会で、ラウンド16のドイツ対ナイジェリア戦を担当。ここで手代木さんは、ある体験をします。正確なジャッジができず、開始からわずか20秒の間にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー、いわゆるビデオ判定)を2回も使ってしまったのです。1回目はオフサイドの非常に微妙な難しいジャッジで、結局その時、彼女は得点を認めます。2回目は明らかなファウル行為の見落としでした。
 試合終了直後はそこまで重く受け止めていませんでしたが、ホテルに戻って改めて映像をチェックすると「大きなミスをしてしまった」と自分でもわかり、手代木さんは一睡もできなかったそうです。
日本に帰るはずでしたが、「失敗しても納得できる行動をしよう」「胸を張って日本に帰れるように」という目標を思い出します。「自分で改善するまでは帰らない」と決め、自分のミスジャッジに対する見解を多くの人に聞いて回りました。「レベルの高いトップレフェリーから、たくさんのことを学び、仲間が増え、人としてのあり方を学べた。恥をしのんで、失敗したジャッジに対し教えを乞う行動ができたのは、大きいことだった」と手代木さんは振り返ります。
また、このフランス大会では「人への感謝」「人への思いやり」も多く学んだといいます。大会では約90名近くいる審判員を支えるスタッフが47人もいて、例えばトレーナーたちは、審判のために毎日違うトレーニングメニューを考え、体調や様子の変化に対し細かく声をかけ、心のケアもしてくれる。自分たちの体を酷使しながらもサポートしてくれるトレーナーの存在があったからこそ、大会を終えることができたといいます。
 3つの大きな国際試合通じ、手代木さんは「自信をもって挑戦しつづけること、曲げずにやり続けること」「勇気をもって挑戦すること」「継続することの大切さ」「信頼されることの大切さ」を学びました。
 今後は、男子の世界での活動も見据えます。例えば身をもってその難しさを体験したVARですが、日本では今年からやっと、J1リーグに導入されたばかり。女子がそこに向かえばジャッジの質を高めることができるとして、手代木さんは「リスクもあり、失敗すれば壁にはなるが、誰かがやらなくては、その道は開けない」と、自分の経験を後進の成長につなげようとしています。
 「自分がまわりにしてもらったこと、学んできたことを次世代の成長に役立て、彼女たちが様々なことに気付きながら世界で活躍できるようサポートすることも、自分に課せられた使命」と手代木さん。多くの人に支えられ、励まされてきたことを忘れずに、これから世界を目指す人たちを支えていく思いです。