2025.04.30
令和7年4月22日、TKC東北会秋田県支部主催の特別講演会に、当会会員15名が参加しました。講師は「八月の御所グラウンド」で第170回直木賞を受賞した作家の万城目学さん。「小説家という職業」のテーマでご講演されました。鈴木健太知事とは大学時代からの親友で、小説を書き始めた頃から知事に原稿を見せたり、自衛隊について取材(知事は元自衛官)したりしていたそうです。京都を舞台にした八月の御所グラウンドも、万城目氏が鈴木知事から草野球に誘われた体験がベースになっています。
友人とのメールのやり取りで自分の文章へのこだわりに気づいた大学生の万城目さんは、三年生の時から思い立って長編小説を書き始めました。5年生まで留年した後、化学繊維メーカーに勤めて貯めた200万円を握りしめ、無職で執筆に打ち込みます。「200万円の元手が無くなるまで小説を書こう」と思い、何度も出版社に応募しましたが、2年間は1次選考すら突破できなかったそうです。
万城目氏は、「その頃は今とは全く違う、固い作品をひたすら書いて送っていた。『A』という作品をつくってダメだった時は『A´』をつくり、それもダメなら『A´´』をつくり、最初の『A』という方向性を変えられなくなってしまっていた」と振り返ります。
「次の応募がダメなら、大阪に帰って就職しよう」と思った時、思い切ってまったく違う作風に変えて書いたのが、京都大学を舞台にした青春小説で、映画にもなった「鴨川ホルモー」。「無職の暗い自分の話は盛り込まず、面白く書いてみた」というその作品は、第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞しました。「お金が無くなって、どうしようもない状況に立って初めて、今までとは違うものをつくろうと思えた。お金に余裕があったら、別の作品ができていたと思う」と話しました。
万城目氏は執筆する際、タイトルから導入、あらすじまですべて自分で決めるため、編集者をはじめ人のアイディアはあまり聞かず、相談もしないそうです。作家になって来年で20年。作家、編集者、印刷など複数の職種が分業でつくる本について改めて考えた時、「本ができあがる行程を全て知っている人が一人もいない、不思議な業界だ」と気づいた万城目氏は、「みをつくし戦隊メトレンジャー」という書き下ろし連作短編で予算、内容、表紙、印刷、書店との調整など、すべての行程を自力で実施。「今まで当然だと思っていた編集者の気持ちや大変さがわかり、最近は編集者の提案に『ノー』と言えなくなってしまった」と笑顔を見せました。