
TKC東北会秋田県支部主催の生涯研修
~知的財産の最新動向を学ぶ~
令和2年10月8日(木)、秋田市中通の「パーティーギャラリーイヤタカ」で開催されたTKC秋田県支部主催の講演会に、当法人の会員15名が参加しました。講師は、あきた知的財産事務所の齋藤博子氏と、齋藤昭彦氏。お二人とも知財の専門家である「弁理士」です。特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権といった知的財産権について、県内企業の知財活用例や、コロナ禍における知財の最新動向などをご紹介いただきました。
【第1部】齋藤博子氏「県内企業の知財活用例」
一つ目の事例は、運輸・運送業の株式会社秋豊ネットライズ(秋田市土崎港)が開発した保安灯「みちほたる」。点灯装置で特許(技術)、保安灯で意匠(デザイン)、名前で商標(ネーミング)を登録しています。
スノーポールの上部等に設置。暗い道路沿いなどで紫のLEDが「ほわ~ん」とゆっくり灯った後、黄緑色に戻る点滅を繰り返す様子は、まさにほたるのよう。点滅に緩急をつけたことで省エネにつながり、一晩中点灯が続きます。下部には積雪に左右されない垂直のソーラーパネルが設置されていて、吹雪でくっついた雪も微電流で流れ落ちる仕組みです。USBジャックから携帯電話の充電もできたり、傾けると高照度になってライトとして使えたりと様々な工夫が凝らされており、夜の災害時における避難行動を見据えた「防災面」でのニーズも高いそうです。
特許権の登録には通常、申請から約2半がかかりますが、みちほたるはわずか10カ月で登録。国道などに設置する目的で国土交通省に早く売り込みたかったため、「早期審査請求」という仕組みを活用したそうです。また、ふつうは書類でのやり取りですが、みちほたるはカラー点滅で図面だけではその有効性がわからないため、審査官に秋田へ来てもらい、需要などを直接、説明する方法をとりました。
全国の国道に設置されれば、外国から侵害品が入ってくる恐れがあるため、意匠権も取得。商標は「みちほたる」というネーミングで、“道で蛍のように光る保安灯”というイメージが簡単にわきます。
二つ目の事例は、和菓子製造・販売の有限会社蕗月堂(横手市十文字町)が開発したどら焼き「もふどら」。商標を登録しており、「もふもふした、柔らかいどら焼き」と連想できます。
どら焼きなのに箱の中が見えない、秋田犬のデザインが可愛いパッケージが特徴。箱に入っているのでピラミッド型にも積み重ねられ、それだけで目を引きます。商品名は箱の側面に印字し、縦積みにして売った時に横から見えるよう工夫されています。
なお、特許庁は今年度から、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する「デザイン経営」を推し進めているそうで、デザインとブランディングは確かに直結していることがわかります。
【第2部】齋藤昭彦氏「コロナ禍における知財最新動向」
コロナ禍における実用新案(小発明)の出願状況を分野別に見ると、1位はマスクやフェイスシールド、2位がパーティションや衝立、3位が容器・包装体、4位が健康器具や殺菌装置、5位が運動器具だそうです。健康器具などが入っているのは、いわゆる「ステイホーム」の影響だとみられています。
特許の審査案件では、救急車の中で感染者がいる場所の気圧を低くし、外にウイルスを逃がさない「負圧シールド装置」や、再使用時でも型崩れしにくい「プリーツ型布マスク」などがあるそうです。
また、実用新案で出願されている具体事例としては、食事の時などに外したマスクをしまっておくマスクカバーや、液晶ディスプレイにとりつけるモニター用のパーティションのほか、不接触でドアノブを回せたり、エレベーターのボタンを押せたりするドアノブ回し具などがあります。
ただ、実際に商品として世に出回るのは、1割あればいい方なのだとか。出願だけで終わるケースが非常に多いそうです。齋藤氏は相談に来る人に「出願した後でどうするか、売るための戦略がきちんとあるかを聞くようにしている」とのこと。「商品として売るために特許が役に立たなければ、出願する意味がない」と話します。
県の取り組みも紹介していただきました。「ものづくりTeam AKITA」という仕組みで、コロナで医療機関の物資が不足した際、県内企業に対応してもらうため、開発や販売をサポートする連携スキームで、補助金が出ます。
この仕組みを活用した企業のひとつが、横手市の株式会社小松木工。木工の企業と医療物資は一見、つながりづらいですが、同社が開発したのは「BLOCK ROOM」(商標出願中)という医療用の簡易陰圧室。実用新案としてはすでに登録されているそうです。
ドアが両側にある木のボックスで、医療従事者と感染者がそれぞれ反対側の入り口から入ると、真ん中に衝立があって空気の流れが遮断されています。中は陰圧になっていて外にウイルスが逃げないようになっており、感染者側を低圧にすることで患者から医療従事者の方にウイルスが流れない仕組みです。中の空気はフィルターを使って常に洗浄しています。2人を隔てる衝立の下部のテーブルは高さが調節でき、子どもから大人まで対応できるそうです。齋藤氏によると、このような自治体と連携した仕組みを活用すれば、信頼されやすいのだそうです。
コロナで大きな打撃を受けた飲食・ホテル業界の商標例も紹介していただきました。
「はま寿司」を展開している株式会社ゼンショーホールディングスは、よく見るはま寿司のロゴを今年の3月になぜか出願。もともと登録しているロゴですが、商標は「何に使うか、どういったサービスに使うかを指定して登録」しなければならないそうで、どうやらテイクアウト用に登録したようです。8月には「Hama Cafe」も出願しています。
「くら寿司」を展開する株式会社くらコーポレーションは、4月17日(緊急事態宣言が出た後)に「おうちdeくら」、同27日には「くるまdeお持ち帰り」を出願。この時期にはテイクアウトで並ぶことさえ控える時期だったので、そのニーズに応えた形です。まだまだコロナ禍の6月8日には「出前deくら」を出願。GoTo キャンペーンが始まった後の7月28日には、そろそろ客足が戻ることを見据えて「Go To くら」を出願しています。コロナの動きが追随されており、先手を打って商標を出しているのがわかるということです。
ホテル業界ではアパホテルが、7月28日に「六本木SIX」という新しいホテルを開業する際、同月9日の段階で商標を出願。東京がいちばん大変な時期にあえて新たなホテルを開業するなど「コロナ禍にあっても勢いを感じる」と齋藤氏。「商標を探るだけでも、様々な会社の新しい事業が見える。ライバル会社の動きも分ったりするのが、知財の世界」と紹介してくださいました。